AIが進むほど、フェスの価値は上がる。大物資本が「複製できない熱狂」を買い始めた
AI企業へ巨額の資金を投じている投資家が、同時にスポーツチームやライブ会場、フェスを買い始めている。
一見すると、逆方向の投資に見える。
片方はAI。
ソフトウェア。
デジタル。
自動化。
もう片方は、
フェス。
ライブ。
スポーツ。
クラブ。
巨大な会場。
人間がわざわざ現地まで足を運ぶ、極めてアナログな世界だ。
でも、おそらくこれは逆ではない。
同じ未来を見ているからこそ、両方を買っている。
AIによってデジタルなものが無限に作れるようになるほど、
逆に価値が上がるものがある。
コピーできないもの。
その場所へ行かなければ体験できないもの。
他人と同じ時間を共有しなければ成立しないもの。
そして、
人間を熱狂させるもの。
世界の大きな資本が、そこへ動き始めている。
OpenAIに賭けるThriveが、次に買い始めたもの
この動きを最も象徴しているのが、Joshua Kushner率いるThrive Capitalだ。
ThriveはOpenAIの主要投資家として知られている。
2024年のOpenAIの大型資金調達ではThriveが10億ドル以上を投資し、条件次第で翌年さらに10億ドルを追加投資できる特別な権利まで確保したとReutersは報じている。 (reuters.com)
つまり、AIの未来にかなり強く賭けてきた投資会社だ。
そのThriveが2026年、新しい投資会社を立ち上げた。
Thrive Eternal。
名前の通り、通常のVCファンドよりも長期間保有することを想定した、永久資本型の投資ビークルだ。
最初の投資先の一つは、MLBのSan Francisco Giants。
そしてThrive Eternalが今後狙う対象について、Axiosはこう報じている。
「qualities that cannot be replicated by technology」
つまり、
テクノロジーでは複製できない性質を持つ資産。
その候補にはプロスポーツだけではなく、
象徴的なライブイベント会場やフェス
まで含まれている。元Disney CEOのBob Igerも深く関わるという。
ここが重要だ。
AIに悲観している投資家が、デジタルから逃げてアナログへ向かっているのではない。
むしろ逆。
AIに最も強く賭けている投資家の一人が、そのAIでは複製できないものにも資本を置き始めている。
AI時代に希少性はどこへ移るのか
なぜなのか。
少し未来を考えてみる。
以前は、
文章を書く。
絵を描く。
曲を作る。
動画を作る。
ソフトウェアを作る。
これらすべてに、人間の時間と技術が必要だった。
だから「作れること」そのものに価値があった。
でも生成AIによって、その前提が急速に変わっている。
文章は大量に作れる。
画像も作れる。
映像も作れる。
音楽も作れる。
将来はゲームや映画ですら、ユーザーごとに大量生成できるようになるかもしれない。
すると、デジタルコンテンツの供給量は限りなく増えていく。
しかし、人間が持っている時間は増えない。
1日は24時間しかない。
耳も二つ。
目も二つ。
身体も一つ。
つまりAIが大量生産するほど、
希少なのはコンテンツではなく、人間の注意になる。
さらにその先で希少になるのが、
現実世界の時間と場所だ。

Tomorrowlandはコピーできない
Tomorrowlandのようなフェスを考えてみる。
音源だけならSpotifyで聴ける。
DJセットならYouTubeで見られる。
将来的にはAIに、
「Tomorrowlandっぽいセットを作って」
と頼めば、何時間でも作れるようになるだろう。
映像だって生成できる。
Tomorrowland風の巨大ステージを持つ架空のフェス映像を、AIが何千本と作ることもできる。
それでも、
今年のTomorrowlandに実際に行った
という経験は生成できない。
その日の天気。
一緒に行った友人。
知らない人との出会い。
5万人が同じドロップで叫んだ瞬間。
帰り道。
疲労。
匂い。
身体で感じた低音。
「自分がそこにいた」という記憶。
これはコピーできない。
同じものをもう一度生成することもできない。
だからAIによってデジタルなものが無限供給されればされるほど、
有限な体験の相対的な希少性は上がる。
Thrive Eternalが狙っているものは、まさにそこなのではないか。
そしてThriveだけではない
この話がJoshua Kushner一人の変わった投資思想なら、それほど面白くない。
でも世界の資本の動きを見ると、同じ方向の投資がかなり増えている。
もちろん注意したいことがある。
KKRやCVCなどが、
「AIによってフェスの価値が上がるから買う」
と明言しているわけではない。
だから、すべての投資を「AI対策」と説明するのは雑だ。
ただし、
Thriveが明文化した「テクノロジーでは複製できないもの」という仮説と、実際の巨大資本の投資先がかなり重なっている。
ここが面白い。
KKRとCVCは、80以上のフェスをまとめて買った
2024年、世界最大級の投資会社KKRは、ライブエンターテインメント企業Superstruct Entertainmentを買収した。
Superstructは、
Sónar。
Defqon.1。
Parookaville。
Wacken Open Air。
Sziget。
Boardmasters。
などを含む、80以上の音楽フェスを10カ国で運営する巨大グループだ。
その後、CVCもKKRと共同で出資している。
そしてKKRの公式発表には、買収理由がかなり分かりやすく書かれている。
消費者支出が「モノ」から「体験」へ移行しており、ライブエンターテインメントへの需要は今後も拡大すると考えている。
というものだ。
これは巨大な賭けだ。
一本のフェスを買ったのではない。
人間がリアルな場所へ集まって音楽を楽しむという市場そのものへ、巨大PEが資本を置いた。
さらに買ったのがBoiler Roomだった
ここからさらに面白くなる。
KKRとCVC傘下のSuperstructは2025年、DICEからBoiler Roomを買収した。
Boiler Room自身も、2025年1月にSuperstructへ売却されたことを公式サイトで明記している。
Boiler Roomは一般的なフェス会社ではない。
巨大な土地を持っているわけでもない。
巨大アリーナを所有しているわけでもない。
Boiler Roomが持っているものは、
ブランド。
フォーマット。
コミュニティ。
DJとの関係。
世界中のローカルシーンとの接点。
そして、
「Boiler Roomなら行きたい」と思わせる力
だ。
つまり資本が買っているのは会場だけではない。
人間をリアルな場所へ動かすIPそのもの
でもある。
これは前の記事で書いた、
「箱からIPへ」
という話と完全につながっている。
Pachaは3億ユーロで売れた
ナイトクラブそのものにも同じ動きがある。
2023年、FIVE HoldingsはPacha Groupを3億250万ユーロで買収した。
対象にはPacha Ibizaだけでなく、ホテル、イベント、Pachaブランドと商標などが含まれる。
重要なのは、
「ナイトクラブ」という不動産を買っただけではない
という点だ。
PachaというIPを買った。
そして買収後も伸びている。
FIVEによれば、Pacha Groupの2025年売上は1億3,200万ユーロ、前年比18%増。
EBITDAは4,100万ユーロ。
Pacha Ibizaのチケット販売は約48.4万枚で、前年比27%増だった。
前の記事で、
「普通の深夜クラブは苦しくなるかもしれない」
と書いた。
それと矛盾しない。
むしろ、
普通のクラブは弱くなる一方で、世界的IPになったクラブへ価値が集中する
ということなのかもしれない。
Tao Groupにも5.5億ドル
2023年には投資会社Mohari HospitalityがTao Group Hospitalityを5億5,000万ドルの企業価値で買収した。
Tao Groupはレストランだけでなく、
OMNIA。
Marquee。
Hakkasan。
TAO Beach。
Wet Republic。
などの巨大ナイトライフブランドを展開している。
ここでも資本が買っているのは、
単なるクラブ店舗ではない。
世界各都市へ展開できるナイトライフのフォーマットとブランド
だ。
普通の箱より、
「OMNIAだから行く」
「Pachaだから行く」
というブランドの方が価値を持つ。
Live Nationは年間10億ドル近くを「物理的な会場」へ入れている
さらに分かりやすいのがLive Nationだ。
2025年、Live Nationは米国内の18の音楽会場の新設・改修へ10億ドルを投資する計画を発表した。
同社の2025年の設備投資予定は9億〜10億ドル。
そのうち7億〜8億ドルが、会場の拡張・改善に充てられる計画だった。
しかもLive Nationは、それらの会場投資から平均20%以上のIRRを期待している。
これはかなり象徴的だ。
世界がAIデータセンターに何千億ドルも投資している同じ時代に、
一方では、
人間が同じ場所に集まって音楽を見るための建物
にも巨額資本が投入されている。
なぜなら、その需要が消えないと見ているからだ。
そして日本では、金融会社のSBIがフェスを買った
ここで日本を見る。
2025年9月。
SBIホールディングスは、大型音楽フェス「MUSIC CIRCUS」の運営会社の発行済株式の過半数を取得し、連結子会社化した。
金融会社がフェス会社を買った。
そしてSBI自身が買収理由として挙げた言葉が非常に面白い。
「リアルイベントを起点とした熱狂的なコミュニティ形成能力」
だ。
これだけでも、今回のテーマにかなり近い。
SBIが欲しかったのは単なるフェス収益ではない。
「人を集めて、熱狂させる能力」
だった。
SBIの動きを全部並べると、さらに意味が変わる
MUSIC CIRCUSだけなら偶然にも見える。
でも、その後を並べると全然違う。
SBIは2026年、TOKYO GIRLS COLLECTIONを手掛けるW TOKYOと資本業務提携した。
目的には、IP・コンテンツの価値創出が明記されている。
さらに音楽事業・SNSマーケティングを展開するスターミュージック・エンタテインメントの子会社化へ動いた。
ライブドア等を持つミンカブとも協議。
VTuberを展開するBrave groupとも協議。
GENDAとも資本業務提携。
SBI自身が説明している通り、
金融・IT・メディアを融合した「SBIネオメディア生態系」
を作ろうとしている。
これはもう、
金融会社が片手間にエンタメへ参入した
という話ではない。
SBIはそれを「感情経済圏」と呼んでいる
さらに2026年6月。
SBIはフジ・メディア・ホールディングスとの間で、メディア・コンテンツ領域における戦略的提携の協議を開始した。
そのリリースの副題がかなりすごい。
「『好き』と『共感・熱狂』を価値につなげる“感情経済圏”の共同構築へ」
だ。
SBIは、
コンテンツへの共感。
信頼。
熱狂。
を起点に、
経済活動を生み出す構想を明確に掲げている。
具体的には、
放送。
配信。
リアルイベント。
スポンサー。
地域消費。
ファンコミュニティ。
金融機能。
IPへの投資。
までを接続することを検討している。
ここまで来ると、SBIが見ている未来はかなり明確だ。
人間の感情そのものを経済圏の入口にする。
そして東京版Sphereまで構想している
SBIの方向性を象徴しているのが、東京版Sphere構想だ。
2026年4月、SBIはラスベガスの巨大没入型施設「Sphere」をモデルにした大型アリーナを東京へ建設する構想を検討していることを明らかにした。
候補地としてお台場。
米MSG Entertainmentとの交渉。
建設費は当時の試算で約3,500億円。
北尾吉孝氏は、状況によっては5,000億円近くに達する可能性にも言及している。
現時点ではあくまで構想・交渉段階で、建設決定ではない。
それでも意味は大きい。
AI、金融、Web3をやっている巨大金融グループが、
次の成長領域として、
何千億円もする、人間がリアルに集まる巨大エンターテインメント施設
を検討している。
偶然とは思いにくい。
F1も「巨大メディア」として見ている
SBIは2026年、F1ラスベガス・グランプリのメディア部門における公式プレゼンティングパートナーにもなった。
そしてSBI自身がF1をどう説明しているかが面白い。
都市空間。
映像演出。
ホスピタリティ。
ファン体験。
デジタル発信。
それらが一体となった「都市一体型エンターテインメント」。
さらに、
「都市そのものが巨大なメディアとなる」
という表現まで使っている。
ここで「メディア」の意味が変わる。
テレビだけではない。
Webサイトだけでもない。
フェスもメディアになる。
F1もメディアになる。
Sphereもメディアになる。
そこに人間が集まり、感情が動き、動画が撮られ、SNSへ拡散される。
物理空間そのものがコンテンツ生成装置になる。
なぜ「金融」と「エンタメ」がつながるのか
ここでSBIの動きは、Thriveとは違う角度から同じ未来を見ているように思えてくる。
金融会社には、
金がある。
顧客がいる。
決済がある。
投資機能がある。
信用がある。
データがある。
しかし、
熱狂がない。
銀行のアプリを見て泣く人はいない。
証券口座のロゴを見て叫ぶ人もいない。
一方、エンタメには、
IP。
スター。
コミュニティ。
ファン。
感情。
熱狂。
がある。
人は好きなアーティストなら高いチケットを買う。
海外まで行く。
グッズを買う。
友人に勧める。
翌年も行く。
金融から見ると、これほど強い顧客関係はなかなか存在しない。
だから、
金融がエンタメを欲しがる
のは、実はそれほど不思議ではない。
金融会社が欲しいのは「顧客」ではなく「ファン」なのかもしれない
顧客とファンは違う。
顧客は、
条件が悪くなれば離れる。
金利が低ければ別の銀行へ行く。
手数料が高ければ別の証券会社へ行く。
還元率が悪ければ別のカードにする。
合理的だ。
でもファンは違う。
多少高くても買う。
遠くても行く。
何時間も並ぶ。
毎年行く。
他人にも勧める。
自分からSNSで宣伝する。
つまり、
ファンは自発的なマーケティング装置でもある。
AIによって金融商品の比較がさらに簡単になれば、
機能だけで顧客を囲い込むことは難しくなる。
AIが、
「今日はこの銀行」
「この投資商品」
「このカード」
が最適だと自動判断する未来すらあり得る。
そのとき企業が欲しくなるのは、
機能では簡単に乗り換えない関係。
つまり、
感情的な関係
なのかもしれない。
この動きはSBIだけでもない
金融会社がエンタメを使って顧客との関係を作る事例自体は、すでに世界中にある。
American Expressは、
Coachella。
FUJI ROCK。
SUMMER SONIC。
などへの先行販売や限定体験をカードの価値にしている。
Chaseもライブやフェスへの特別アクセスを提供する。
Capital Oneは、音楽・スポーツなど50万以上のイベントを扱うCapital One Entertainmentを作り、カードのポイントでもチケットを購入できる仕組みを構築している。
つまりクレジットカードの価値が、
「決済できる」
だけではなく、
「このカードを持っているから、この体験へアクセスできる」
へ変わり始めている。
金融とエンタメの融合は、すでに始まっている。
SBIはそこからさらに踏み込んで、
体験そのものを作る側まで取りに行っている
と考えると分かりやすい。
「モノからコトへ」の次は「コトから熱狂へ」
よく、
「消費はモノからコトへ移った」
と言われる。
KKRもSuperstructの買収理由として、消費者支出がモノから体験へ移る流れを挙げている。
でも、ここからさらに一段進むと思う。
ただ「体験」があるだけでは足りない。
どこにでもあるイベント。
どこにでもあるクラブ。
どこにでもあるライブ。
これは供給が増えればコモディティになる。
価値を持つのは、
そのブランドだから行きたい。
そのコミュニティに属したい。
この日を逃したくない。
と思わせるもの。
つまり、
モノ → コト → 熱狂
へ進んでいるのではないか。
だから普通のクラブは苦しくなり、Pachaは高く売れる
これは前回の記事、
「ダンスフロアは死なない。“深夜の箱”が死ぬだけだ」
ともつながっている。
日本ではクラブの供給が増えている。
普通の週末だけでは大箱を埋めにくくなっているように感じる。
海外の有名DJや、大型イベントの夜へ客が集中する。
つまり、
客が箱ではなくイベント/IPへ付いている。
だから普通のクラブが供給過多になる一方で、
Pachaは3億ユーロを超える価格で売買される。
Boiler Roomは巨大フェスグループに買われる。
Superstructは80以上のイベントを束ねる。
両方は矛盾していない。
むしろ同じ変化だ。
コモディティ化した場所の価値は下がる。
人を動かせるIPの価値は上がる。
AIはこの流れをさらに加速させる可能性がある
ここからは仮説だ。
AIによって、
音楽。
映像。
文章。
広告。
デザイン。
ゲーム。
などが大量生成される。
すると、コンテンツ単体の希少性は下がる。
世の中には「良い曲」が増える。
「綺麗な映像」も増える。
「面白い広告」も増える。
でも、
人間の時間は増えない。
だから供給が増えれば増えるほど、
Attention=注意
の奪い合いになる。
そして注意を長期間保持する一番強いものの一つが、
IPとコミュニティ
だ。
さらにデジタルでは完全に代替できないものが、
リアルな体験
になる。
AIが100万曲作れても、5万人は生成できない

AIなら100万曲を生成できる。
1億枚の画像も作れる。
映画も無限に作れる時代が来るかもしれない。
でも、
明日の夜、
5万人を同じ場所へ集めることはできない。
フェスを作るには、
土地がいる。
許可がいる。
出演者がいる。
スタッフがいる。
交通がいる。
安全管理がいる。
そして何より、
5万人の人間が「行きたい」と思わなければならない。
ここに強烈な参入障壁がある。
TomorrowlandをAIに説明すれば、
Tomorrowlandっぽい画像はいくらでも作れる。
でも、
Tomorrowlandそのものは作れない。
その違いが、AI時代にはむしろ大きくなる。
「自分がそこにいた」はAIには作れない
今後、SNSにはAI生成された完璧な景色が大量に流れるだろう。
実在しないリゾート。
実在しないライブ。
実在しないDJ。
実在しないモデル。
区別できないほどリアルになるかもしれない。
すると逆に、
本当に自分が経験したこと
の価値が上がる可能性がある。
「あの動画を見た」
より、
「あそこへ行った」。
「その曲を聴いた」
より、
「5万人と一緒にその曲を聴いた」。
「Tomorrowlandの映像を生成した」
より、
「Tomorrowlandへ行った」。
AIが作れるものが増えるほど、
人生の履歴としてのリアルな経験
は希少になる。
ただし「フェスなら全部勝つ」わけではない
ここは重要だ。
この話は、
「これからフェス会社を買えば絶対儲かる」
という意味ではない。
フェスには大きなリスクもある。
天候。
出演者コスト。
警備。
土地。
物流。
許認可。
為替。
事故。
供給過多。
音楽トレンド。
そして固定費。
ライブ体験がAIで代替されにくいことと、
その運営会社の経営が優秀であることは別問題だ。
Thrive Eternalの投資戦略にも同じことが言える。
実際、2026年にはFIFAの商業資産への大型投資計画をThrive Eternalが主導する構想が進んだものの、ガバナンスやサッカー界特有の政治的な反発などを背景に計画は撤回された。
複製できないからといって、投資しやすいわけではない。
文化には文化の難しさがある。
それでも資本は「リアル」へ向かっている
それでも並べてみると、方向性はかなり面白い。
OpenAIへ巨額投資するThrive。
そのThriveが、
テクノロジーで複製できないもの
を投資テーマにしたThrive Eternalを作る。
KKRとCVCは80以上の音楽フェスを持つSuperstructへ投資する。
そのSuperstructはBoiler Roomを買う。
FIVEはPachaを3億ユーロ超で買う。
MohariはTao Groupを5.5億ドルで買う。
Live Nationは年間10億ドル近くをリアルな音楽会場へ投じる。
そして日本では、
金融会社のSBIがMUSIC CIRCUSを傘下に入れ、
音楽会社。
ファッションIP。
メディア。
F1。
そして東京版Sphere構想まで広げる。
SBI自身がそれを、
「共感」「信頼」「熱狂」を起点とした感情経済圏
と呼んでいる。
それぞれの投資理由は同一ではない。
しかし、
人間を集め、感情を動かし、コミュニティを作れる資産へ資本が向かっている
という現象として見ると、同じ線上に並んで見える。
AI時代に最も価値が上がるのは「人を集める力」なのかもしれない
これまでメディア企業が欲しかったのは、
コンテンツだった。
テレビ番組。
映画。
楽曲。
記事。
でもAI時代には、コンテンツそのものは大量に作れるようになる。
だとすると本当に希少なのは、
「誰に見てもらえるか」
になる。
さらに一段進めば、
「誰を動かせるか」
になる。
スマホの画面で100万人に見られる。
それも価値がある。
でも、
1万人を実際に移動させる。
チケットを買わせる。
会場へ来てもらう。
そこで数時間過ごしてもらう。
そして翌年も来てもらう。
これは非常に強い。
フェスやライブイベントが持っている本当の資産は、
ステージでも土地でもない。
人間を動かす力
なのかもしれない。
金融には金がある。メディアには注意がある。エンタメには熱狂がある
SBIの動きまで含めると、
もう一つ面白い構造が見える。
金融には、
Money=金
がある。
メディアには、
Attention=注意
がある。
エンタメには、
Emotion=感情
がある。
そしてフェスやライブには、
Community=人間関係
まである。
この4つがつながると、
かなり強い経済圏になる。
メディアで知る。
IPを好きになる。
フェスへ行く。
チケットを買う。
その場で決済する。
SNSへ投稿する。
コミュニティに入る。
次のイベントへ行く。
グッズを買う。
金融商品を使う。
さらにそのIPへ投資する。
SBIが「感情経済圏」と呼んでいるものは、
そのループを作ろうとしているのだと思う。
AIに強く賭けるからこそ、AIの反対側も買う
Thrive Eternalへ戻ろう。
この話の面白さは、
テクノロジー投資家が突然アナログに目覚めたことではない。
AIに強く賭けているからこそ、その世界で希少になるものまで考えている
ことだ。
AIがそれほど社会を変えないなら、
これまで通りでいい。
でも本当にAIが、
知的労働。
創作。
ソフトウェア。
メディア。
を根本的に変えるなら、
その先で何が希少になるのかも変わる。
デジタルが無限になる。
ならば有限なものが高くなる。
情報が無限になる。
ならば注意が高くなる。
コンテンツが無限になる。
ならばIPが高くなる。
オンライン体験が無限になる。
ならばリアル体験が高くなる。
AIが人間の仕事を減らす。
ならば人間は余暇を何に使うのか。
旅行する。
スポーツを見る。
ライブへ行く。
フェスへ行く。
踊る。
人と会う。
AIの先に、むしろエンタメがある。
そんな見方もできる。

AIが進むほど、フェスの価値は上がる
もちろん未来は分からない。
AIによってバーチャル体験が現実以上に魅力的になる可能性もある。
VRやARでライブの概念そのものが変わる可能性もある。
リアルイベントのコストが上がりすぎれば、価格についていけない人も増える。
それでも、
人間が身体を持っている限り、
リアルには一つ大きな強みがある。
同じ場所、同じ時間にいるという事実だ。
これはコピーできない。
保存もできない。
巻き戻せない。
全く同じものを再生成できない。
だから価値がある。
そして今、
Thrive。
KKR。
CVC。
Live Nation。
FIVE。
Mohari。
SBI。
世界の大きな資本が、
その「複製できない体験」の周辺へ資金を動かしている。
AIがエンタメを殺すのではない。
むしろ、
AIによってコピーできるエンタメと、絶対にコピーできないエンタメの価値差が広がる。
そのとき強くなるのは、
ただ曲を作れる会社ではない。
ただクラブを持っている会社でもない。
ただフェスを開催できる会社でもない。
人間を同じ場所へ集め、同じ瞬間に熱狂させられる存在だ。
AIは100万曲を作れる。
でも、
5万人の熱狂は生成できない。
少なくとも、まだ。
だからAIが進めば進むほど、
フェスやライブ、クラブの中でも、
「そこへ行かなければ得られないもの」を持つ場所の価値は、むしろ上がっていくのかもしれない。
主な出典
Axios「Joshua Kushner's Thrive moves into pro sports investing」
www.axios.com/2026/04/27/joshua-kushner-sports-giants-thrive-eternal
Thrive Eternalの設立、San Francisco Giantsへの投資、「technology cannot replicate」という投資テーマ、ライブ会場・フェスも対象候補。
Reuters「OpenAI sees $11.6 billion revenue next year, offers Thrive chance to invest again」
Thrive CapitalによるOpenAIへの10億ドル超の投資と追加投資権。
KKR / CVC「Superstruct Entertainment」
www.cvc.com/media/news/2024/2024-10-28-cvc-joins-kkr-in-the-acquisition-of-superstruct-entertainment
80以上の音楽フェスを運営するSuperstructへの投資。Sónar、Defqon.1、Wacken Open Air等を保有。
Boiler Room「About / Ownership」
2025年1月、Boiler RoomがDICEからSuperstructへ売却。
FIVE Holdings「FIVE Acquires The Pacha Group」
five-holdings.com/five-acquires-the-pacha-group
Pacha Groupを3億250万ユーロで買収。Pachaブランド・商標等を含む。
FIVE Holdings 2025 results
Pacha Group売上1億3,200万ユーロ、前年比18%増、EBITDA4,100万ユーロ、Pacha Ibizaチケット販売約48.4万枚。
Mohari Hospitality「Acquisition of Tao Group Hospitality」
www.prnewswire.com/news-releases/mohari-hospitality-to-acquire-tao-group-hospitality-further-enhancing-its-luxury-portfolio-301799370.html
Tao Groupを5億5,000万ドルの企業価値で買収。
Live Nation「Investing $1 Billion in U.S. Music Venues」
news.livenationentertainment.com/news/live-nation-investing-1-billion-in-u-s-music-venues-boosting-americas-economic-and-cultural-revival
米国内18会場の新設・改修へ10億ドル投資。
Live Nation 2025 financial results / investor materials
2025年の会場拡張・改善向け設備投資7億〜8億ドル、平均20%以上のIRRを想定。
SBIホールディングス「MUSIC CIRCUSの連結子会社化」
www.sbigroup.co.jp/news/2025/0910_15722.html
MUSIC CIRCUSの過半数取得。「リアルイベントを起点とした熱狂的なコミュニティ形成能力」を評価。
SBIネオメディアホールディングス / 電通 / 電通デジタル
金融とIP・メディアを融合する「SBIネオメディア生態系」と「感情経済圏」構想。
SBI / フジ・メディア・ホールディングス
共感・信頼・熱狂を価値へ変える「感情経済圏」、IP投資、リアルイベント、金融機能等を横断する協議。
SBI / W TOKYO
TOKYO GIRLS COLLECTIONをはじめとするIP・コンテンツ領域での資本業務提携。
SBI / スターミュージック・エンタテインメント
音楽・SNSマーケティング企業の子会社化に向けた基本合意。
The Japan Times「SBI Holdings eyes Sphere arena in new Tokyo entertainment push」
www.japantimes.co.jp/business/2026/04/01/companies/sbi-sphere-arena
東京版Sphere構想。お台場候補、MSG Entertainmentとの交渉、当時の建設費試算約3,500億円。
SBI / Las Vegas Grand Prix
F1ラスベガスGPとの提携、「都市そのものが巨大なメディア」というSBIの考え方と感情経済圏戦略。
