Peggy Gouとは?
Peggy Gou(ペギー・グー)は、韓国出身のDJ/プロデューサーである。ロンドンでDJと制作を学び、ベルリンで活動を広げ、韓国語で歌う「It Makes You Forget (Itgehane)」や「Starry Night」で自身の音楽を印象づけた。2023年の「(It Goes Like) Nanana」は、全英シングルチャート最高5位を記録している。[1][10][15][24]
ただし、「Nanana」で突然現れた人ではない。2017年には年間100公演を超える出演が報じられ、すでに国際的に活動していた。世界を回るDJになるまでと、DJを知らない人にも曲が届くまで。その二つを分けて追うと、彼女のキャリアはずっと面白くなる。[11]
基本プロフィール
- アーティスト名・読み方
- Peggy Gou/ペギー・グー
- 出身
- 韓国
最初に聴く3本
Peggy Gou — Boiler Room x Dekmantel Festival 2017
Boiler Room公式YouTube
まずは自作曲ではなく、DJセットから入りたい。後年のポップヒットより前に、彼女がどんな形で世界のクラブリスナーに紹介されたのかを知るための一本である。本人もこの出演を、知名度が広がった重要な機会として振り返っている。[11]
It Makes You Forget (Itgehane) — 2018年
Peggy Gou公式Bandcamp
自分の声と韓国語を、楽曲の中心に置いた転機。DJとして他人のレコードを紹介していた人が、今度は誰かにかけられる曲の作り手になる。その違いに注目して聴きたい。Ninja Tuneから出たEP『Once』に収録されている。[10][33]
Peggy Gou公式Bandcamp
クラブで知られる存在から、広いポップの聴衆に届く存在へ。その変化を示す一曲である。「Itgehane」と並べると、韓国語を歌った時期から国際的な大ヒットを得るまでを、どちらか一方への路線変更と決めつけずに捉えられる。[23][24][25]
14歳で渡ったロンドン。音楽家になるための留学ではなかった
Peggy Gouの出発点は、DJとして海外へ挑戦するための渡航ではない。14歳で韓国からロンドンへ渡ったのは、英語を学ぶためだった。[1] 後年のインタビューでは、韓国での学校の成績を両親が心配したことも理由に挙げている。[3] ピアノを習い、10歳頃には兄のMP3でさまざまなジャンルに触れていたが、そこから直線的にクラブミュージックの仕事へ進んだわけではない。[1]
DJの最初の手ほどきは、2009年に韓国で受けた。本人がXLR8Rに話したところでは、初恋の相手が2枚のCDを使ったビートマッチを教えてくれたという。ビートマッチとは、二つの曲のテンポと拍を合わせてつなぐ技術だ。その後、2011年にロンドンへ戻り、再びDJに取り組んだ。[2]
当時学んでいたのは、London College of Fashionでのファッションだった。しかし、授業よりもレコード店やスタジオ、DJの練習へ気持ちが向く。2019年のインタビューでは、一度コースを落としたものの、戻って最終的には合格したと話している。音楽への傾斜と、途中になった学業を終えることを、並行して進めた時期だった。[3]
家族との関係も、断絶だけでは説明できない。進路を変える彼女に両親は戸惑ったが、本人によれば、音楽を続けるためにもう一年の支援を頼み、実際には二年近く援助を受けた。挑戦する意志と、試す時間を確保できる条件が、ここでは両方あった。[3]
この時点の彼女には、まだリリース実績がない。あるのはDJを始めた経験と、音楽へ向かう関心である。その関心を仕事に変えるには、「好きな曲を知っている」ことから先へ進む必要があった。
好きなレコードの先に、教えてくれる人がいた
初期の音楽観を変えた一人が、ドイツのプロデューサーRoman Flügelだった。『Fatty Folders』を入口に過去の作品も調べ、Phonicaでレコードを買うようになった。好きな曲の背景をたどる聴き方が、ここにある。[13]
ここで彼女が手にしたのは、曲のリストだけではない。レコードを買う場所には、推薦してくれる人がいる。クラブには、好きな音を実際に鳴らす人がいる。後から見ると、この二つの場所が、学びと仕事の接点になっている。
制作の師となったEsaと知り合ったのは、ロンドンのCorsica Studiosだった。自作曲を作りたいと考え、個別に指導を受けた。2016年のDummyでも、制作ソフトAbleton Liveを教わった相手としてEsaを挙げている。[4][5]
一方、出演していればすべてが理想の音楽活動になるわけでもなかった。初期にはロンドン中心部のクラブでも働き、プレイ中にJustin BieberやRihannaをかけてほしいと頼まれた。本人はこれを「最悪の経験」と振り返っている。好きなレコードを揃えることと、その場所で求められる音楽に向き合うことは、別の課題だった。[5]
学び方は制作でも具体的だ。XLR8Rでは、好きな曲に沿って似た構成を作り、各要素がどう組み合わさるかを理解する練習が役立ったと述べている。同じインタビューで挙げた、最初のリリースまでの制作数は約500。ただし、これは本人による概算で、未完成のものも含む。「500曲を完成させた」という話ではない。[2]
ここから読み取れるのは、最初から独自の音を迷わず出せた人ではなかった、ということだ。既存曲の構造を学び、教わり、途中で止まった制作物も抱える。その過程を、後年のヒットから逆算して消してしまう必要はない。
ベルリンで、聴く生活を作る生活へ変える

2014年、彼女はベルリンへ移る。理由を「テクノの都に憧れたから」だけで済ませることはできない。2016年のStamp The Waxでは、ロンドンで音楽学校へ進もうとしたものの、修了したばかりのファッションの課程より下のレベルだったためにビザが却下されたこと、以前から訪れていたベルリンに友人がいたことを説明している。制度上の制約と、実際に住める場所との接点があった。[1]
ベルリンでの初期生活について、2019年のHypebaeの取材では、レコード店で働き、自宅で音楽を作り、日曜にはBerghainへ通っていたと振り返っている。店、家、クラブを行き来する生活の中で、音楽に接する時間を増やしたのである。[7]
制作の指導者も新しく見つけた。Mixmagによれば、Nu GuineaのLucio Aquilinaからは、よりアナログな質感の音を出すための手ほどきを受けた。[4] Rekidsの紹介でも、Nu Guineaの二人にピアノを習い、制作の助言を求めたとされている。[8] ロンドンで始めた学習を、ベルリンの人間関係の中で続けていたことが分かる。
ベルリンは、何も持たない彼女を一晩でスターにした場所ではない。すでにロンドンで始めていたDJ、レコード探し、制作を、より生活の中心へ置く場所になった。これは移住の成果を考えるうえで、大切な違いだ。都市の名前だけを真似しても、その中で誰と会い、何を作るかまでは手に入らない。
Phonicaの常連客から、Rekidsのアーティストへ
最初のリリースへ至る道筋には、二つの接点がある。
一つは、Radio SlaveことMatt Edwardsとのつながりだ。Stamp The Waxでの本人の説明によると、以前、女性やアジア系のDJを必要としていた中国のMercedes-Benzのオートショーについて、彼が主催者に彼女を推薦したことがあった。当時の二人はFacebookでつながっているだけの間柄で、その後友人になった。[1]
もう一つは、PhonicaのSimonだった。2016年のMixmagで彼女は、SimonがMattに自分の音楽のことを話してくれたと説明している。そこでRekidsへ5曲を渡した。[4] Stamp The Waxによれば、Rekidsはそのうち4曲を選んだ。[1] 2枚組のLPでは費用がかさむため、Part 1とPart 2の二つのEPに分けて出すことになった。[4]
すでに面識があったことと、作品が正式に評価されたことを分けて考えると、この経路は明瞭になる。DJとしての接点が先にあり、レコード店の人から音楽についての推薦が入り、送れるデモが手元にあった。ひとつの運命的な出会いだけで完結した話ではない。
2016年のデビュー作『Art Of War』には、「Troop」「In Sum」とGalcher Lustwerkのリミックスが収められた。Rekidsの公式紹介は、ロンドン時代から磨いてきた制作と長年のDJ経験に触れている。同じ紹介によれば、EPのアートワークも彼女自身が手がけた。音と見た目を同じ作品の中で扱う姿勢は、この段階ですでに確認できる。[8]
同じ年の6月11日深夜に始まったBerghainのKlubnachtでは、Panorama BarでRekidsの10周年が祝われた。公式タイムテーブルには、Radio SlaveやDavid Moralesらとともに、翌日12時からのPeggy Gouの名前がある。次の出演者は15時から。Panorama Barの昼の3時間を任される枠だった。[9]
レーベルのリリース記録と、レーベルの周年公演の記録がつながる。誰がどんな理由でブッキングを決めたかまでは公開資料から断定できないが、自作曲を出すことが、出演の文脈にもなっていたことは見て取れる。
2017年、世界に届いたのはDJをしている姿だった
Rekidsだけでなく、Phonica WhiteやTechnicolourからも作品が出る。2017年のXLR8Rは、Moodymannの『DJ-Kicks』発売公演でのサポートなど、DJとしての活動も紹介している。リリースを重ねる時期に、現場での機会も広がっていた。[2]
Ninja Tuneの紹介には、Jackmasterが自身のMastermix公演へ招いたことや、B.Traitsに招かれ、BBC Radio 1の「Future 12」のミックスを録音したことも記されている。先輩DJの推薦、レーベル、ラジオ、実際の公演。それぞれ違う入口から、彼女を知る人が増えていった。[10]
その姿を遠くまで届けたのが、2017年のDekmantelでのBoiler Roomだった。本人は翌年のThe FADERで、あのセットによってより多くの人に知られるようになったと話している。同誌は、2017年の出演を100公演超と報じた。「Nanana」の6年前に、現場で経験を重ねていたことを示す当時の記録である。[11][12]
映像で見つけられることと、現場で経験を積むことは、ここでは並行していた。動画が広まったからゼロからDJになれた、という順序ではない。すでに活動していたDJの姿が、会場にいなかった人にも届いたのである。
したがって、DJとしての成功とプロデューサーとしての成功を、完全に一列へ並べるのも難しい。DJは先に始めた。しかし、国際的な出演が増える時期には自作曲のリリースがあり、その後にまた、DJ映像が新しい聴衆を連れてきた。双方が次の接点を作っている。
「Itgehane」で、自分の声が曲の顔になる
2018年3月2日、Ninja TuneからEP『Once』が出る。収録曲「It Makes You Forget (Itgehane)」では、自分の声で韓国語を歌った。声を録音したこと自体は以前にもあったが、Ninja Tuneの説明では、本格的に歌唱を取り入れたのはこの作品だった。[10][33]
言語の選択には、迷いがあった。Hypebaeのインタビューで彼女は、自分の韓国語を聴衆が受け入れるか、意味が通じるか、不安だったと話している。同時に、海外で意味の分からない言語のレコードを見つけ、それを特別に感じる経験もあった。言葉を理解できないことは、音楽を好きになる妨げとは限らない。歌詞を手がけたBada Kwonの存在も、この取材で明らかにしている。[7]
Grooveによれば、Floating Pointsも、韓国語で歌うことを後押しした。自分の声を出すという本人の決断の周りに、相談できる相手がいたのである。[13]
この曲で加わったのは、出身国を説明するための記号だけではない。DJセットの選曲と違い、自作曲なら、同じ声を繰り返し聴いて覚えてもらえる。誰のセットで流れても残る、作品の中の手がかりになる。韓国語だから成功したとまでは言えないが、既存のハウスの語彙に、自分が持っている言語と声を持ち込んだ点には意味がある。
Pitchforkの『Once』評は、力強くはないが巧みに使われる歌声が、ハウスの定型に色を加え、曲を埋もれさせない要素になっていると評価した。韓国語が、言葉の分からない聴き手の興味を引くことにも触れている。珍しさだけでなく、声の使い方が音楽上の特徴として聴かれていた。[14]
本人もThe FADERで、H&Mのような店、ラジオ、ホテル、クラブ、ビーチバーなどで曲が流れ、50〜60代の人や子どもからも反応が届くことへの驚きを語っている。2023年を待つまでもなく、自作曲がDJ本人とは別に移動する経験は、ここで始まっていた。[11]
「Starry Night」とGudu。ヒットを自分で引き受ける
2019年の「Starry Night」は、『Moment EP』に収録された。リリース元は、自ら立ち上げたGudu Records。カタログ番号はGUDU001である。公式クレジットには、作曲・プロデュースをPeggy Gou、歌詞をMaktoopと記載している。[15]
Guduの出発点は、『Moment EP』を自分で出すことだった。2023年のBeatportalで本人は、最初は『Moment EP』を出すためだったと話し、収益の50%を他社と分け合いたくなかったとも率直に語っている。他社から作品を出した経験からは、自分の曲を完全にコントロールしたいという考えも得たという。[16]
他社から作品を出して評価を受けた段階から、自分でリリースを決める段階へ。曲を作る以外の責任も引き受ける変化だった。
その運営には失敗もあった。「Starry Night」が成功し、次も同じように売れると思ってしまったという。パンデミック中のJRMSのリリースは、タイミングが悪く振るわなかったと振り返っている。[16]
2023年時点の運営では、実務の多くをレーベルマネージャーのTom Leaが担い、彼女はミックスやマスタリングの最終確認に関与する。アーティストの意向も確認するという説明だ。同じ記事は、GuduがMaurice FultonやDMX Krewといったベテランを新しい世代に紹介し、韓国のMogwaaらを含む国際的なアーティストを抱えるようになったと紹介している。[16]
自分で決めることと、すべて自分で作業することは違う。その区別があるから、DJとして移動を続けながら、他人の作品を世に出す活動も成り立つ。Guduの意義はロゴが増えたことではなく、作品を選び、責任を持ち、必要な仕事を分担する側へ移ったことにある。
選曲を褒められても、ミックスまで褒められるとは限らない
同じ2019年、Peggy Gouは『DJ-Kicks』も手がける。DJが選曲とミックスを通じて自身を示す、!K7のシリーズだ。しかし、すでに人気があるからといって、批評が一色に揃ったわけではない。
Resident Advisorのレビュー(Steph Lee)は、収録曲の良さや選曲眼を認めながら、ミックスは平板で急いでいるように聞こえ、全体を貫く流れも見つけにくいと評した。良い選曲はそれだけで創造性にはならない、という指摘である。対してPitchforkは、クラブの一夜の再現というより、彼女の趣味や影響源をたどる作品として肯定的に捉えた。[17][18]
これは、どちらかを間違いとして処理するより、DJへの評価軸が複数ある例として読むと役に立つ。珍しい曲を知っていること、曲単体の魅力を選べること、曲順で時間を作れること。その三つは重なるが、同じ能力ではない。
Boiler Roomで姿が広まり、自作曲が支持されても、ミックス作品はミックス作品として聴かれる。彼女の歩みを「何をしても成功した」とまとめると、DJ自身が学べるはずのこの細部が消えてしまう。
ファッションの仕事は、DJの外側だけにあったわけではない
ファッションでは、Harper’s Bazaar Koreaの編集アシスタントも経験した。Vogueによると、KIRINの起点はMytheresaとOff-WhiteのロンドンでのイベントへのDJ出演だった。イベント後、Virgil AblohとNew Guards Groupの幹部から声をかけられ、後にVirgilが「彼女と組むべきだ」と推していたと知ったという。こうして2019年にブランドが始動する。[19]
ここでは、DJの仕事そのものが、別の事業の入口になった。かつてのファッションの学習と仕事があり、DJとして呼ばれる機会があり、ブランドを形にする企業との接点ができる。その順序がある。
KIRINの服は、2019年には香港のLane CrawfordやロンドンのBrownsなどで展開された。韓国の想像上の生き物ヘテを用いた柄も紹介されている。着こなしを発信する人から、売り場に並ぶ商品を持つ人への変化だった。[7]
SNSでのビジュアルも、着飾った本人の写真だけで説明すると足りない。2018年のGrooveは、ファンが手作りしたTシャツで彼女を迎える人々の写真を本人がInstagramで共有する動き、曲名を尋ねるファンへの応答などを伝えている。人に見られるだけでなく、聴き手が参加できる関係があった。[13]
2023年のHypebeastでは、国やタイミング、フェスによって、その街や状況に合うと思う「エネルギー」を選んで服を決めると話している。自分のパフォーマンスには衣装も含まれる、という考えだ。[20]
もちろん、こうした発信が何件のブッキングを生んだかは分からない。服の写真から知った人、DJ動画から知った人、曲から知った人を、公開された数字だけで分離することもできない。資料から言えるのは、音楽とファッションの間に、実際の仕事や人間関係の行き来があったことだ。「おしゃれだったから売れた」だけでは、その具体的な経路を説明できない。
「I Go」。止まったツアーの時間を、次の曲へ
2021年7月9日、Guduから「I Go」が出る。公式紹介によれば、ツアーが止まったロックダウンの期間に、彼女は好きだった90年代のダンス音楽を聴き直していた。曲の発想には、その再訪がある。[21]
歌詞の出発点は、2019年に空港のトイレで、疲れた自分を見ながらスマートフォンへ書いたメモだった。本人は、自分を励まし、進むための曲だと説明している。制作はPeggy Gou、歌詞はPeggy GouとMaktoop、マスタリングはFrank Merritt。公式クレジットは、各人の役割を分けて記している。[21]
この曲が示すのは、韓国語の歌唱を一度の話題で終わらせず、自分の経験とダンス音楽への関心を、別の作品へ持ち越したことである。ツアーができない時間を、そのまま制作の空白にはしなかった。
2022年3月には、Soulwax、DJ Koze、Maurice Fultonによるリミックス集も出た。公式ページで彼女は、好きなアーティストたちに自ら依頼したと述べている。[22]
かつてレコードを買い、影響を受けていた側のDJが、今度は自作曲を渡して、別の解釈を頼む。リミックスは宣伝の付属物である以前に、作り手同士が一つの曲を介して接続する方法でもある。ここには、初期の「教わる」「デモを聴いてもらう」関係とは違う広がりがある。
「Nanana」が変えたのは、人気の大きさと入口だった
2023年6月15日、XL Recordingsから「(It Goes Like) Nanana」がリリースされる。Beatportalの当日の報道によれば、それ以前にヘッドライナーとして出演したロンドンのPrintworksのクロージングで先に披露され、ファンはそれ以来この曲を探していたという。完成した音源を配信してから初めて反応を測ったのではなく、DJの現場で先に曲が届いていたのである。[23]
その後の到達点は、Official Chartsの記録で確認できる。英国のOfficial Singles Chartで最高5位、トップ10内に12週。これはDJ向けストアの売上順位とも、SNS動画の再生数とも異なる、英国の総合シングルチャート上の実績だ。[24]
では、以前の人気とは何が違ったのか。本人は2024年のBillboardの取材で、「Nanana」で初めて、人々が自分の顔より先に曲を認識していると気づいた、と説明している。この記事はBillboard JAPAN掲載の日本語版で確認できる。[25]
顔を知られることが無意味だった、という話ではない。彼女にはすでに、DJとして会いに来るファンも、自作曲を買う人もいた。そこへ、本人を知らずに曲を口ずさめる層が加わったのである。ヒットが拡大したのは人数だけでなく、彼女に出会う順番だった。
米国市場でも変化があった。同じBillboard記事でXLのLaura Lyonsは、UltraやEDC Las Vegasへの出演について、アンダーグラウンドの電子音楽ファンから、よりメインストリームの電子音楽ファン層へ聴衆を広げると説明している。2018年のCoachellaではYumaに出演し、2024年にはSaharaへ移ったことも、同記事が報じている。[25]
ただし、「Nanana」がヒットしたからXLとの話が始まり、初めてアルバム制作へ進んだ、と書くのは順序が違う。2023年3月のHypebeastのインタビューで、すでにXLからのアルバム計画は語られていた。アルバムには2019年より前から取り組んでいたとも説明している。大ヒットは、進行中だった計画を、より多くの人が待つものにした。[20]
『I Hear You』で問われた、ヒットの先
デビューアルバム『I Hear You』は、2024年6月7日にXL Recordingsから発売された。10曲には「I Go」「Nanana」に加え、Lenny Kravitzと組んだ「I Believe In Love Again」、Villano Antillanoを迎えた「All That」などが並ぶ。[26]
短いリリースを重ねることと、アルバムを作ることでは、聴かれ方が変わる。一曲でフロアを動かすだけでなく、異なる曲が一枚の中でどう共存するかも問われる。大きなヒットを含むデビュー盤は、知名度を得てから自分の全体像を提示する作品になった。
評価は分かれた。PitchforkのChal Ravensは、ヒット曲の効力を認めつつ、アルバム全体では以前の独特な魅力にも、十分なポップの強さにも届いていないと批判した。[27] 一方、The Observerは90年代ダンスの魅力を引き出した作品として肯定的に評した。[28]
肯定的な評も批判的な評も、DJとしての集客力とは別のところで、一枚の作品に向き合っている。知名度を得た後にも、音楽家として次に何を示すかという課題は残る。
DJとしての規模も広がり続けた。Glastonburyの2024年公式記録では、The Park Stageの土曜23時から翌0時15分にPeggy Gouが組まれている。[29] アルバム発売と同じ月に、大規模フェスの一角で夜を締めくくる。作品を発表する場と、DJとして観客を迎える場の両方が広がっていた。
女性、アジア出身、そして現在地
彼女の成功を語るとき、女性であることや韓国出身であることは、しばしば目立つ肩書きになる。しかし本人の経験には、注目を得ることと、音楽家として扱われることのずれもあった。
2026年のThe Standardの取材では、ベルリンのレコード店で働いていた頃、男性の同僚から見た目よくレコードを売ることを求められ、音楽の話はしてもらえなかった経験を振り返っている。同じ記事で語った初期のThe Book Clubでの定期的なDJは、失敗しながら学ぶ場所でもあった。踊らない人ばかりを気にするのではなく、少人数でも踊っている人へ意識を向けるという教訓が、そこには残っている。[6]
こうした発言を、あらゆる出来事の原因として使うべきではない。同時に、見た目が知られているから音楽面での評価も容易だった、と決めつける根拠にもならない。本人の説明からは、可視性と信用を別々に獲得する必要があったことがうかがえる。
2026年9月29日時点で確認できる活動は、『I Hear You』で止まっていない。公式リリースには、2025年6月24日の「D.A.N.C.E.」、2026年6月26日のAyra Starrとの「Wo, man」がある。[30][31] 活動拠点についても、長く使われてきた「ベルリン拠点」という紹介を固定しないほうがよい。2026年7月のThe Standardは、2024年からロンドンに住んでいると報じている。[6]
一方で、曲を探す習慣は続いている。2026年の10 Magazineによれば、公演ごとの要望書(ライダー)で、主催者に滞在する国のレコードを用意してもらっている。本人も、帰るたびに新しいレコードを持ち帰ると話している。[32] 世界を回ることを、既知のヒットを届ける仕事だけで終わらせず、新しい音を受け取る機会にもしている。
Peggy Gouの歩みからDJが学べること
以下は、本人の成功法則として語られたものではない。ここまでの行動と経緯から、DJをする読者が自分の活動へ置き換えるための提案である。
1. 好きな曲の先を、一段だけ深く調べる
Peggy Gouにとって、レコード店やクラブは、選曲の材料を集める場所であると同時に、EsaやPhonicaのSimonとの接点になった。[4]
実践するなら、気に入った一曲について、作った人、出したレーベル、その人が出演するイベントまで調べる。店へ行けるなら、曲を挙げて似た作品を尋ねる。「誰か有名な人と知り合う」を目標にするより、自分が何を好きなのかを具体的に話せるようにするほうが、音楽についてのやり取りを始めやすい。
2. 練習用の模倣と、人に渡す作品を分ける
好きな曲の構成をなぞる練習と、Rekidsへ選んで送ったデモは、同じ役割ではない。[2][4]
練習では、何小節で要素が入り、どこで減り、どう展開するかを書き出して再現してみる。そのうえで外へ送る曲は、自分の意図を説明できるものに絞る。約500という数字をノルマにする必要はない。作りかけを増やす段階と、他人が判断できる形へ仕上げる段階を、自分の中で区別することが大切だ。
3. DJと制作では、確かめる成果を変える
彼女のキャリアでは、DJ出演、自作曲、セット映像が互いに接点を増やした。しかし、それぞれが同じ能力を証明するわけではない。『DJ-Kicks』の批評も、その違いを示している。[17][18]
DJの録音なら、曲単体の良さだけでなく、前後のつながりや時間帯に合う流れを聴き返す。自作曲なら、他のDJが使いやすいか、曲として覚えてもらえる部分があるかを、別に確かめる。フォロワー数が増えたことを、どちらの課題も解けた証拠にはしない。
4. 自分にある要素を試し、反応を見て育てる
韓国語と本人の声は、最初から成功が約束された武器ではなかった。本人にも不安があり、相談相手や歌詞を書く人の協力があった。[7][13]
真似すべきなのは言語の選択そのものではない。自分の声、育った土地の音楽、普段聴いている別ジャンルなど、すでに身近にある要素を一つ、制作で試すことだ。使った理由と、聴いた人に何が残ったかを比べる。プロフィールで独自性を宣言する前に、音源の中で確かめられる。
5. 発信には、音楽へ戻れる入口を付ける
ファンとのやり取りは、Peggy Gouを知る入口を増やした。[13] ファッションの仕事も、DJ出演から広がった。[19] ただし、同じ服装や投稿頻度を再現すれば同じ人気が得られるわけではない。
自分の活動であれば、写真や短い動画から、フルセット、曲名、リリース、次の出演情報へたどれるようにしておく。人柄に興味を持った人が、音楽まで聴ける導線を作る。どの投稿が目立ったかに加え、その先で何を聴いてもらえたかを見ると、発信の目的がはっきりする。
6. 自主運営は、自由と仕事量を一緒に引き受ける
Guduは、リリースの主導権を持つ選択だった。同時に、Tom Leaとの分担があり、次の作品が同じように売れない経験もあった。[16]
自主レーベルを考えるなら、まず一作について、制作、権利確認、マスタリング、アートワーク、配信、宣伝、精算を誰が担うかを書き出す。自分で決めたい仕事と、任せられる作業を分ける。立ち上げることだけを目標にせず、売上が予想に届かなくても次の判断ができる規模で始めることが現実的だ。
彼女の歩みには、家族の支援、暮らした都市、出会った人々、映像が広く流通する時代といった条件がある。それらは、そのまま誰にでも再現できる戦略ではない。それでも、好きな音を掘ること、教わること、作品を渡せる状態にすること、評価の違いを受け止めることは、自分の活動の中で選べる。
Peggy Gouが世界的DJになるまでには、他人の曲を選んで人に届ける時間があった。その先で、自分の曲が、本人の姿を知らない人にまで届くようになった。二つの仕事の間を何度も行き来した過程にこそ、このキャリアから学べることがある。
主な参考資料
本人発言は、特に引用符を付した箇所を除き、各資料の内容を日本語で要約した。本文中の番号から根拠へ直接移動できる。レーベルの公式紹介は作品情報・クレジットの確認に用い、宣伝上の評価表現は事実と分けて扱った。
[1] Stamp The Wax「Stamp Mix #55: Peggy Gou」/2016-01-21
https://www.stampthewax.com/2016/01/21/stamp-mix-55-peggy-gou/
[2] XLR8R「20 Questions: Peggy Gou」/2017-02-24(2020-08-04の更新表示あり)
https://xlr8r.com/features/20-questions-peggy-gou/
[3] The Standard「DJ Peggy Gou on the best way to deal with sexism: ‘Kill them with kindness’」/2019-04-15
https://www.standard.co.uk/lifestyle/peggy-gou-dj-interview-a4114261.html
[4] Mixmag「Impact: Peggy Gou」/2016-05-05
https://mixmag.net/feature/impact-peggy-gou/
[5] Dummy/DMY「Peggy Gou: ‘I would like to be the first Korean female DJ that plays in Berghain.’」/2016-03-31
https://dmy.co/features/peggy-gou-interview
[6] The Standard「Peggy Gou: ‘They wanted me to look pretty. They didn’t want to talk to me about music’」/2026-07-30
https://www.standard.co.uk/culture/music/peggy-gou-london-croydon-k-house-music-b1291799.html
[7] Hypebae/Hypebeast「Peggy Gou Discusses Her Career & Inspiration Behind Fashion Line, Kirin」/2019-09-25(Hypebeast掲載。Hypebaeの取材の転載。Hypebae側の元記事の日付は未確認)
https://hypebeast.com/2019/9/peggy-gou-dj-kirin-fashion-launch-interview
[8] Rekids公式Bandcamp「Art Of War」/2016年(ページの発売日表示は2016-05-02。編集メモ参照)
https://rekids.bandcamp.com/album/art-of-war
[9] Berghain公式「KLUBNACHT」/2016-06-11開始の公演記録
https://www.berghain.berlin/de/event/1677/
[10] Ninja Tune公式「Once / Peggy Gou」/発売日2018-03-02
https://ninjatune.net/release/peggy-gou/once
[11] The FADER「Peggy Gou is winning over the world. In a one-off lecture, she’s coming home to reflect on the journey.」/2018-03-15(Partner記事)
https://www.thefader.com/2018/03/15/budx-seoul-peggy-gou-interview-boiler-room-budweiser
[12] Boiler Room公式YouTube「Peggy Gou | Boiler Room x Dekmantel Festival: Amsterdam」/動画公開2017-09-06
https://www.youtube.com/watch?v=nKHpbiYCtDQ
[13] Groove「Peggy Gou: Gou Vibrations」/2018-12-03
https://groove.de/2018/12/03/peggy-gou-feature-english/
[14] Pitchfork「Peggy Gou: Once EP」/2018-03-03
https://pitchfork.com/reviews/albums/peggy-gou-once-ep/
[15] Peggy Gou/Gudu公式Bandcamp「Moment EP」/2019年(ページの発売日表示は2019-05-03。編集メモ参照)
https://peggygou.bandcamp.com/album/moment-ep
[16] Beatportal「Label of the Month: Gudu Records」/2023-05-04
https://www.beatportal.com/articles/51050-label-of-the-month-gudu-records
[17] Resident Advisor「Peggy Gou – DJ-Kicks」/2019-06-27
https://ra.co/reviews/23897
[18] Pitchfork「Peggy Gou: DJ-Kicks」/2019-07-02
https://pitchfork.com/reviews/albums/peggy-gou-dj-kicks/
[19] Vogue「Meet Kirin’s Peggy Gou: The DJ Turned Designer Mixing Fashion and Club Culture」/2019-02-28
https://www.vogue.com/article/kirin-dj-peggy-gou-new-fashion-line
[20] Hypebeast「Streetsnaps: Peggy Gou」/2023-03-13
https://hypebeast.com/2023/3/streetsnaps-peggy-gou-gudu-records-interview
[21] Peggy Gou/Gudu公式Bandcamp「I Go」/発売日2021-07-09
https://peggygou.bandcamp.com/album/i-go
[22] Peggy Gou/Gudu公式Bandcamp「I Go (Remixes)」/発売日2022-03-30
https://peggygou.bandcamp.com/album/i-go-remixes
[23] Beatportal「Peggy Gou Releases First Ever Single On XL Recordings」/2023-06-15
https://www.beatportal.com/articles/319821-peggy-gou-releases-first-ever-single-on-xl-recordings
[24] Official Charts「PEGGY GOU songs and albums / full Official Chart history」/随時更新、2026-09-29確認
https://www.officialcharts.com/artist/53160/peggy-gou/
[25] Billboard JAPAN(Katie Bainによる米Billboard記事の日本語版)「<フジロック’24出演>ペギー・グー、画期的なDJ/プロデューサーへの世界的需要が急増している理由とは」/日本語版2024-06-05/原記事2024-04-25
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/138172/2
[26] Peggy Gou公式Bandcamp/XL Recordings「I Hear You」/発売日2024-06-07
https://peggygou.bandcamp.com/album/i-hear-you
[27] Pitchfork「Peggy Gou: I Hear You」/2024-06-07
https://pitchfork.com/reviews/albums/peggy-gou-i-hear-you/
[28] The Observer/The Guardian「Peggy Gou: I Hear You review – sparkling, 90s-inspired dance」/2024-06-07
https://www.theguardian.com/music/article/2024/jun/07/peggy-gou-i-hear-you-review-sparkling-90s-inspired-dance
[29] Glastonbury公式「Line-up 2024」/2024年公演記録、2026-09-29確認
https://www.glastonburyfestivals.co.uk/line-up/line-up-2024/?view=artists
[30] Peggy Gou公式Bandcamp「D.A.N.C.E.」/発売日2025-06-24(Gudu Records)
https://peggygou.bandcamp.com/album/d-a-n-c-e
[31] Peggy Gou公式Bandcamp/XL Recordings「Wo, man」/発売日2026-06-26
https://peggygou.bandcamp.com/album/wo-man
[32] 10 Magazine「Peggy Gou: On The Record」/2026-03-19
https://10magazine.com/peggy-gou-on-the-record/
[33] Peggy Gou公式Bandcamp「It Makes You Forget (Itgehane)」/『Once』発売日2018-03-02
https://peggygou.bandcamp.com/track/it-makes-you-forget-itgehane
[34] Peggy Gou公式Bandcamp「(It Goes Like) Nanana」/発売日2023-06-15
https://peggygou.bandcamp.com/track/it-goes-like-nanana
